第11回 人それぞれ
「こころのかたち」を分かり易く説明するために、時々、相手と自分を何かに
例えてもらうことがあります。
ある日のこと、仕事に行けなくなってしまった彼に出会いました。
私「・・・ふーん、じゃあ、上司の方は例えるとしたら、何?」
彼「えっ・・ゴリラとか・・イノシシとか・・」
「なるほど、強いわけだ。」
「ハイ。」
「じゃあ、君は?」
「動物ですか?・・」
「ー思いつかないの?」
「ハイ。」
「なんでもいいよ。物でも」
「・・・・・・・・豆腐」
「豆腐?」
「・・ハイ。」
本来のこの人の「こころのかたち」はちゃんと生き物でした。
しかし、上司のキョーレツな指導を受けるうちにどんどん生気が無くなり、
何か冷たくどうしようもなく柔らかくなってしまったのです。
上司は、彼なりの愛で彼をゴリラにしたかったのかもしれません。
しかし、資質を間違えるとこういう不幸が起こります。
不幸を避けるには、「己を知り、相手を知る。」ということが、とても大切です。
彼の「こころのかたち」は「気弱・真面目・要領が悪い」でした。
もし上司が彼を伸ばしたいのなら、要領の悪い点を具体的に指導し、でこちらから声掛けして
安心させ、できたら褒めるです。
真面目なので時間がかかったり残業したりは、あまり問題にはなりません。
「要領が悪い点を補い、気弱さを褒めて押し上げ、真面目さを生かす。」
これが彼に最大のパフォーマンスをさせる処方箋です。
ところが上司は自分が習ってきたゴリラ手法で彼を鍛えました。
彼は誰にだってそうすべきだと疑わず、出来なければ叱り飛ばし、
気弱な彼に怒り怒鳴り続けました。
その結果が「豆腐」です。
彼はどうでしょうか?
相手から逃げても、相手を恨んでも決してうまくいきません。
要領が悪いことを自覚し、どうしても繰り返し訊いたりすることが多くなっても、
相手の嫌な顔や、怒鳴る風圧に負けない踏ん張りがどうしても必要です。
「自分がダメなんじゃないか」「自分が悪いんじゃないか」と自己を否定し、
自分らしさを失ってどんどんエネルギーを売り渡し、冷えて固まったんです。
いいですか。
気弱さは優しさに、要領の悪さは粘り強さに変えていけるんです。
しり込みせず、被害者にならず、諦めず、愚直な自分を認めてください。
彼は上司になる必要はありません。
自分であり続けるんです。